2011年09月11日
オートレーサー森 且行

森且行がオートレースの世界に身を投じてから、12年が過ぎた。
時折、取材先で知り合う20歳ぐらいの女の子に「あのグループに木村、中居、草彅、香取、稲垣のほか、もう1人いたって知ってる?」と聞くことがある。すると彼女たちはすぐに「知ってます」と答える。その返事を聞くと、僕は少しうれしくなる。当時。人気絶頂だったアイドルグループを脱退してまで、自分の夢に賭けた1人の男の存在を、世間はまだ忘れないでいる。
しかし、彼が挑んだ世界について、本当に知っている人間は少ない。それは、ひとたび落車すれば、コンクリートのバンクの上に叩きつけられ、ゴロゴロと転がるしかない世界である。森は何度となく落車し、再起不能かと思われるほどの傷を負ったこともある。
「絶対に一番になる」と若者らしく強気に宣言し、トップアイドルの座を捨ててまで入ったオートレースの世界で、森は12年を過ごした。現行ランクは最高位のS級、全国464人の選手中。51位である(08年度前期)。一流ではあるが、超一流の壁は越えていない。 彼のレースにかける「熱」は、まだ持続しているのだろうか。
──僕は森さんが養成所にいた時から拝見していたんで、あれから12年が経ちました。先日のレースも優勝されましたよね(3月3日パートナーカップ/川口オートレース場)。まず、今の自分の現状っていうのはどういうふうに考えていますか?
森 実は、ここ3年間くらいずっと調子悪かったんです。タイヤの規格が変わったりして、なかなか順応できなくて、あきらめかけていた部分があった。3年間のうち、くすぶった1年目で「ヤバいな」と感じて、2年目は「自分はもう選手として無理なのかな?」ていう意識になった。でも、結果が出ない期間も、整備(オートレースでは、競走車のエンジン調整などのセッティングを選手自らが行う)の勉強はいろいろやっていたんですよ。
──04年には、SGレース(スーパーグレードレースー最高位に格付けされたレース)に優出して、「自分と超一流の違いは整備力の違い」ってコメントをしていましたよね。
森 不調の時代が過ぎて、やっと昨年ぐらいから少しずつ調子が上向きになってきた。ところが、まだ勝てない自分かいる。整備をここまで詰めていって、なんで勝てないのかってよく考えたら、3年間負け続けてきたせいで、精神面がめちゃくちゃ弱くなってるんですよ。